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2016年5月31日火曜日

個性と伝統を生かす街と建物のリノベーション(11)-創造的修景を考える-

時間に耐え得る価値についてお話しています。

前回に続き、時代を超えて美しさや魅力を保つことの2つの面のうち、
  • (2)経年変化によって本来の魅力とは変わりながらも、その過程で評価された新たな魅力や、後に付加した価値も含めた価値が持続し続けること。
について述べます。

この(2)を考慮した修景は、外観の画一的な整理を目的とした一定のルールによる改修の方法を採用しません。

そのように、様式の統一感による魅力を作るのではなく、個々の建造物に長年親しまれ、受け継がれ、付け足され、淘汰されてきた価値や魅力を、まずは評価、選択し、余分なものを消去していくことで、もとあった個性を浮かび上がらせていきます。

そしてそのなかにこれから先も人々に魅力を与え続けていく可能性のあるものを見いだし、それに今の時代の知恵の総集を付け加えるという操作を行うことで、時代を超えて時間に耐える修景を進めていきます。



歴史的景観を紡ぐ














豊かな生活環境を創造したいという多くの市民の願いと、修景という創造への期待が一致した理想のまちづくりを実現するため、(2)を念頭に、時代を超えても魅力あるまちを創り続けていくという気概をもち、建物だけにとどまらず一石一木にいたるまで細やかな配慮を行き渡らせた修景が求められます。

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2016年5月29日日曜日

寺院 伽藍・境内整備のよくあるご相談

寺院の修理や改造、庫裏や納骨堂などの整備についてこのようなお悩みはございませんか

  • 工事にどのくらい費用や時間がかかるか見当がつかない。
  • 施工業者の技術力が分からない。
  • なるべく大事に使いたいが、建て替えた方がよいと言われる。
  • 関係者に工事の内容を上手く説明できない。協議がまとまらない。等など・・・

このようなご相談に対して、私たちは設計者として、相談者様の側に立った具体的な提案を行い、事業がスムーズに進むようにお手伝いしています。

私たちがお手伝いさせていただいた寺院の実例を一部ご紹介いたします。


境内の総合的な整備を行った事例です。
・本堂屋根の葺替え
・広縁・内陣の修理改修
・照明、音響の改修
・納骨堂の建立
・山門の修理改修
・鐘突堂の修理改修
・太鼓門の修理改修
・庫裏の修理改修
・御茶所の修理改修
・石畳みの修理改修




寺院設計の実例です。本堂を改築しました。内陣部分は元のまま残し曳家を行い、新しくした本堂内に再び設置しました。

















こちらに設計実例を紹介しています。寺院・神社設計の設計事例集







2016年5月27日金曜日

個性と伝統を生かす街と建物のリノベーション(10)-創造的修景を考える-

修景における時間に耐え得る価値についてお話ししています。

前回、時代を超えて美しさや魅力を保つということについて、2つの面があると述べました。


  • (1)創られたときに保有していた魅力や価値(物質的価値を含め)が、損われずに維持されること
  • (2)経年による変化が生じることにより、本来の魅力とは変わっていきながらも、その過程で評価された新たな魅力や、後に付加した価値も含めた価値が持続し続けること。

それぞれの面がどのように、修景計画に作用するのかお話します。

まず(1)を考慮した修景は、その建造物の作られた時代の特徴を代表して復元し顕彰する性格のものとなります。

そこでは文化財的な歴史考証に基づく復元が目的化されると共に、現代建築を伝統的様式を模したパーツでカモフラージュするような改修が行われることもあります。


いわば制度的なお仕着せの計画になりがちで、そこに生活する人のもてなしの心、個性を、まちなみの統一感や連帯感のなかに上手く埋め込んでいく設計がなされない場合があります。

とはいえ、その修景の結果としてそこに博物館的な価値が生まれ、観光客で賑わうという状況が起こるならば、とりあえずの成功とみなせるのかもしれません。

しかしそういった取組にこの先も継続的な活性化を生み出せる魅力があるのかといえば、疑問ののこるところです。

(2)については次回。

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2016年5月23日月曜日

個性と伝統を生かす街と建物のリノベーション(9)-創造的修景を考える-

現在、各地で伝統的な建造物や古いまちなみを生かした修景計画が進められています。

自治体の条例などには修景の目的や方針として、「郷土の美化」「歴史と趣のあるまちなみの再創出」などの言葉が掲げられています。

ところで、このような目的の達成のために修景計画は実施されていくのですが、そのことで本当に実現しなくてはならないのは、持続的な活性化をもたらす地域資産を生み出すことであるのを忘れてはなりません。

つまり、修景によって住民の暮らしを文化的にも経済的にも継続的に豊かにしていくような仕組みをまちに埋め込むことです。

そして、そのことが来訪者の高い満足感や評価を生み出し、それがまた住民の誇りや満足感に還元されるという循環構造を構築していくことです。

継続的に価値を生み出す仕組みの構築を修景の目的とするとき、その成果物は、時代を超えて時間に耐え得る価値を持つものでなければなりません。

この時間に耐え得る価値とは、時代を超えて美しさや魅力を保ちつづけるというこです。

そして価値が保たれるということには次の2つの面があります。

  • (1)創られたときに保有していた魅力や価値(物質的価値を含め)が、損われずに維持されること
  • (2)経年による変化が生じることにより、本来の魅力とは変わっていきながらも、その過程で評価された新たな魅力や、後に付加した価値も含めた価値が持続し続けること

この2つの面をどう扱うかによって修景の方向性に違いが生まれることになります。
その点については次回。

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2016年5月21日土曜日

個性と伝統を生かす街と建物のリノベーション(8)-創造的修景を考える-

平成28年4月28日、滋賀県彦根市の「花しょうぶ通り商店街」が、経済産業省近畿経済産業局の「近畿のイケテル商店街 33 選」の一つとして報告されました。http://www.kansai.meti.go.jp/3-8ryusa/iketeru/iketeru_newsrelease.pdf

また、花しょうぶ通り商店街を含む付近のエリアが、市内では初めてとなる重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)に選定されることがこの5月に決まりました。http://www.denken.gr.jp/archives/Hozontiku/hikone_index.html

今回は夢京橋キャッスルロードに続いて関わらせていただいた、この花しょうぶ通り商店街の修景についてお話します。

花しょうぶ通り商店街には平成10年度の中心市街地活性化法によってファサード整備事業を実現するに至った準備検討段階から関わらせていただき、またファサード改修の実施設計も手がけさせていただきました。



ファサードの整備方針については、伝統的な町家と洋館造りの建物、現代建築などが混在するこの場所の特色を鑑み、外観を何らかのデザインコードで統一的に整えることは避けました。

基本的な方針としては、これまでの使用者によって行われてきた改変部分のうち、余分と思われるものを消去し、そのことで見えていくる個性を生かすことを考えました。そのうえで、この商店街を訪れる人々を、さらに誇りを持ってもてなすための仕掛けや工夫を個々の建物に施しました。

これは、受け継がれてきた伝統的な建築物の中にある合理性と美意識を、新しく創られるものの中に生かし、さらに次なる時代の魅力、活力となる創造を付加していくことです。

また、商店主のもてなしの心(個性)をデザインに反映していくという操作によって、画一的、均等的ではない、まちなみの連帯感や統一感を作っていくことでもあります。

この考え方は前回お話しした夢京橋キャッスルロードの理念である「OLD・NEW」と通底するものです。

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2016年5月15日日曜日

多賀町I邸改修工事~町家改修・古民家再生・リノベーション~


改修前外観
改修前外観
多賀大社表参道絵馬通りに面する町家の改修工事が始まりました。

絵馬通りとは、多賀大社へのお参りの人で賑わう表参道の名称で、
通りには昔からの姿をとどめる建物と、装いを新たにした商店などが混在しています。

今回の工事では、町家と蔵に残る伝統的なたたずまいのよさを生かしながら、
現代の生活に合った生活空間に改修するとともに、
参拝者や地元の人々に、落ち着いた空間でくつろぎながら、
お茶と軽食と語らいを楽しんでいただける店舗を整備いたします。

店舗は、もともと玄関として使われていた土間部分と、それに続く二間続きの和室、
そして隣接する蔵の1階を喫茶スペースにします。

店舗と外部との関係については、絵馬通りから、店の土間部分と二間続きの和室越しに中庭へ視線の抜けるよう工夫することで、通りからの風景に奥行を持たせたいと考えています。

ただ修復するのではなく、この場所が今日まで人々に魅力を与え続けてきたものの中にある、
これから先も継続的に人々に魅力を与え続けてゆく可能性を持つものを正しく選択し、
さらに今の時代の知恵の総集を付け加えることが大切です。



私は地域再生計画策定委員として、
LLP風のフォーラムから、多賀町のまちづくりに参加させていただいています。

今回の計画が、一件の建物のリノベーションにとどまらず、
「非日常、文化を愉しみ、心豊かに、元気になれる、おもしろい町多賀」

をスローガンに掲げる、多賀のまちづくりの一助となることを願っています。



計画工房I.T株式会社の町家・蔵の再生、活用事例はこちらから。
再生・活用・リノベーション事例集




2016年5月13日金曜日

個性と伝統を生かす街と建物のリノベーション(7)-創造的修景を考える-

















この春、私どもで設計監理を行った建物が、彦根市の夢京橋キャッスルロードに完成しました。

昭和60年代から進められてきたまちなみの修景事業がこうして今も継続できていることは、当初掲げた理念が、まちづくりの良い指標になっていることの証だと受け止めています。

今回はその理念のことを、「伝統・風土など地域の特性を生かす」という考え方と合わせてお話します。


夢京橋の事業に関わり、私たちが作ったコピーが「OLD・NEW 古いよさを生かした新しいまちづくり」です。

「OLD・NEW」は「OLD&NEW」と同じではありません。
後者は古いものと新しいものとの共存、混成を意味します。


「OLD・NEW」は受け継がれてきたものの中にある合理性と美意識を、新しく創られるものの中に生かし、次なる時代の魅力、活力となる創造を行うことを意味します。

これは受け継がれてきた価値の正しい理解と選択によって、次代の優れた価値を創り出していく礎になるDNAを見極め、埋め込んでいくことです。

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2016年5月6日金曜日

個性と伝統を生かす街と建物のリノベーション(6)-創造的修景を考える-

修景に関わる際に大切な二つの考え方についてお話しています。

一、伝統・風土など地域の特性を生かすということ
ニ、個性を生かすということ


今回は、地域の景観を考える際の大切な思考方法について、
「ニ、伝統・風土など地域の特性を生かす」という観点から、彦根城周辺での修景事例を題材にお話します。

彦根市全域の景観は大きく次の3つのゾーンに分けて性格づけられています。

  • (1)山なみ景観
  • (2)市街地景観
  • (3)田園集落景観

彦根城周辺は(2)に属し、歴史景観と地域中心景観の核として、重点的に整備されようとしている場所です。

この地域は基本的には江戸期に形成された都市の性格を継承しながらも、後年に付加された優れた建造物なども含め、一帯として歴史的景観として評価されています。

また、まちなみや建築物だけでなく、彦根城の植物の生態系に目を向けてみると、築城以来400年のあいだに形成された植生は、築城後植えられたものを交えて先人の手によって淘汰されてきた結果、現在成熟した様相を呈するものとなっています。

城周辺の景観が江戸期以降の建造物を含めて歴史的景観であると評価されていること。城の植生が淘汰された結果としてげン剤成熟した様相を呈していること。

この2つの状態は、地域の景観を考える際の大切な考え方を示唆しています。

それは、新たに付加されたもので後の評価に耐えていくものは、その先の時代も継続的に魅力を与え続けてゆく可能性を持っているということです。

つまり、受け継がれてきた価値の正しい理解と選択によって付加されてきたものは、次代の優れた価値を創り出していく礎になるDNAを有しているということです。
 
この地域での景観形成手法の例を下記に示します。


 ・たねや美濠の舎 
この地に古くから残る桜の木を取り込んで景観形成を行っている。






 




・ポム・ダムール
周辺のなごりを手を加えて残し、さらに新しいものを創造する。




 





・スミス記念礼拝堂周辺整備への提案
構造物と植生との調和を図る








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